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東京地方裁判所八王子支部 平成2年(ワ)1555号 判決 1993年1月27日

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一、請求

被告は、原告に対し、原告から四二七四万五四八四円の支払を受けるのと引換えに、別紙株券目録記載の株券を引き渡せ。

第二、事案の概要

一、本件は、買戻の合意に基づいて株券の引渡を請求した事案である。

二、1. 被告は、訴外太冨士株式会社(以下「訴外株式会社」という。)に対し、昭和五四年七月三一日、一〇〇〇万円を弁済期昭和五四年一二月末日、利息年九パーセントの約定で、貸付けた(以下「第一貸付」という。)。(争いのない事実)

2. 原告は、被告に対し、右貸付に際し、右貸金の担保として不二ハウス工業株式会社(以下「本件株式会社」という。)の株式七万株を担保として預け入れた。(甲一、二、七、乙一、被告代表者)

三、1. 被告は、訴外株式会社に対し、昭和五四年一一月二〇日、二〇〇〇万円を弁済期昭和五五年五月二〇日、利息年九パーセントの約定で貸付け(以下「第二貸付」という。)、右貸付けにあたり、前記1の貸金の弁済期を昭和五五年五月二〇日に延期した。(争いのない事実)

2. 原告は、被告に対し、右貸付に際し、右貸金の担保として本件株式会社の株式五万株を追加担保として預け入れた。(甲二、七、乙一、被告代表者)

3. 原告は、被告に対し、第二貸付に際し、原告所有の別紙物件目録記載の不動産につき、債権者被告、債務者訴外株式会社、債権の範囲金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権、極度額三〇〇〇万円の根抵当権を設定した。(甲四、五、争いのない事実)

四、訴外株式会社は、被告に対し、昭和五六年七月一三日、別紙物件目録記載の土地建物を処分し、同月二七日、第一、二貸付を返済して前記根抵当権の設定登記は抹消された。(甲四、五、乙一)

五、本件株式会社は、昭和四一年一二月七日、会社更生を申請し、昭和四二年三月二日、更生手続の開始決定、昭和四六年二月五日、更生計画の認可決定、昭和五四年一〇月三一日、更生手続終結決定がそれぞれなされ、昭和五六年一〇月五日、更生手続の終結が認可された(争いのない事実)。原告は、本件株式会社の前身の不二機材株式会社及び東京大和ハウス販売株式会社の代表取締役を経て、昭和三八年一〇月右二社を合併して、本件株式会社に商号変更して以来、本件株式会社の代表取締役であり、右会社更生の申請及びその手続を経て、昭和四六年二月本件株式会社の代表取締役を退任した(甲一〇、一一、一三、一四、原告本人)。さらに、原告は、昭和五〇年、訴外株式会社を設立し(甲一〇、原告本人)、右代表取締役をしていたところ、昭和五七年七月三一日、手形不渡事故を起こし(争いのない事実)、同年八月、同社を整理した(甲一〇、原告本人)。

被告代表者は、大学卒業後原告が代表取締役をしていた当時の本件株式会社に入社勤務していたが、昭和四一年、同社を退社した(甲一〇、乙一、原告本人)。

六、争点

原告の買戻権が存在するか否か。

第三、争点に対する判断

一、被告代表者は、昭和五四年七月頃、訴外株式会社の資金繰りに窮していた原告から融資依頼を受け、被告が本件株式会社の経営に参加でき、本件株式会社の筆頭株主の保有株式を取得できるべく原告が取り計らうことを見返りに、第一、第二貸付をおこなった。原告と被告は、右貸付けにあたり、覚書を作成し、右覚書には、右各貸付内容のほか、担保として本件株式会社の株式(合計一二万株)の預け入れ、原告及びその親族所有の本件株式会社の株式(二〇万〇〇七四株)の株主権行使のための委任状の差し入れ、第一貸付における覚書においては技研興業株式会社保有の本件株式会社の株式約三八万株を被告が取得出来るよう原告が努力すること、原告は被告がハウスの販売・生産面で本件株式会社と業務提携出来るよう努力すること等が記載されていた。なお、右第二貸付における覚書には、右担保預け入れした各株式については、すべて貸株扱い、配当又は所有は原告個人のものとする旨明示されていた。(甲一ないし三、一〇、乙一、原告本人)

しかし、原告は、訴外株式会社の資金繰りが切迫してきたため、被告に対し、昭和五五年二月一三日、既に第一、第二貸付で被告に担保として預け入れしてあった原告保有の本件株式会社の株一二万株に同社の五万株を加えて、一七万株を、一株一二五円、売渡金額に年一二パーセントのプレミアムを付け買戻期間を五年内を目途とし、その間は原告が被告からの買戻の要求に対し三か月以内に買戻の出来ない場合を除いて被告は原告以外の第三者に右株式を譲渡しないこと等を内容とする買戻条件付で譲渡した(以下「本件買戻条件付譲渡」という。)。そして、原被告は右内容を昭和五五年二月一六日付覚書に記載作成した。なお、右覚書には、第一、第二貸付における覚書を尊重する旨の一項が存した。(甲三、一四、乙一、原告本人)

原告は、その後の昭和五五年九月及び昭和五六年九月の本件株式会社の配当は受領しているものの、その後昭和五七年以降昭和六二年までは本件株式会社は無配であった(甲一一、一三、原告本人)。原告は、被告に対し、昭和六〇年二月一三日、当時右株式買戻の資力もなかったことから、内容証明郵便により、本件買戻条件付譲渡は覚書の条項により昭和六〇年二月一五日付をもって清算日とし当該株式代金をもって清算する旨通知し、その後清算について原告被告代表者間で話し合いをもち清算方法につき被告が右株式を引取る旨の前提で話合いがなされたが、被告は本件株式会社の当時の赤字状況から本件株式会社の株価は六〇円が相場である旨の認識であったため、清算金の授受については合意はできなかった(甲六、原告本人、被告代表者)。また、原告はその際、被告に対し、買戻期間の延長の申し入れもしなかった(原告本人)。その後、本件株式会社は昭和六二年以降平成二年まで一五パーセントの配当を実施しているが、原告は被告に対し、昭和六二年以降平成元年までは右配当受領要求をしたことはなかった。(甲一一、一三、原告本人)

しかし、原告は、平成元年六月二日頃、右買戻資金が用意できたことから、被告に対し、右株式の買戻を要求した。しかし、被告代表者は、昭和五五年二月一六日付覚書により右譲渡は買戻期間の経過により清算済みとの認識であったため、被告から原告に対し提示された買戻価額は右覚書の金額ではなく、右買戻株式の譲渡禁止など新たな条件が原告に対し提示され、原被告間において右株式の買戻条件は折り合わなかった。

二、以上の事実によれば、本件株式の買戻条件付譲渡の実質は、担保目的ではあったものの、右買戻条件である買戻期間の五年間を既に四年も経過後たまたま原告が買戻資金が用意できたことによる買戻要求であって、被告の合意が得られない以上、原告には買戻権は存しない。

原告は、被告は原告の買戻自体は承諾している旨主張するが、既に昭和五五年二月一六日付覚書の買戻期間経過及び右期間満了時の原告の右株式による清算の意思表示によって、本件株式会社の買戻条件付譲渡の買戻権は消滅している以上、原告のその後の買戻の申し入れは、単なる本件株式会社の株式譲渡の申し入れにすぎず、右譲渡価額等の合意が被告との間で成立しない以上、原告の本件株式の引渡請求権は存しない。

株券目録

不二ハウス工業株式会社(本店 東京都中央区日本橋茅場町二丁目四番九号)の株券(額面金額五〇円、五〇〇〇株券、番号Aに第〇〇〇三号からAに第〇〇三六号まで三四枚)一七万株

物件目録

一、所在 東京都世田谷区<以下編集注・略>

地番 九四九番四

地目 宅地

地籍 三七八・七七平方メートル

二、所在 東京都世田谷区<以下編集注・略>

家屋番号 九四九番四の一

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付三階建

床面積

一階 一〇二・一五平方メートル

二階 八三・八八平方メートル

三階 三九・八四平方メートル

地下一階 二・二五平方メートル

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